被告人が,自動車を運転中に,進路適正保持義務に違反し,反対車線に停止中の自動車と衝突する人身事故を起こした過失運転致傷の事案において,原審裁判長が,検察官に対し,被告人が故意に事故を起こしたとの認定に至った場合に備えた対応の検討を求め,訴因変更を促す釈明権を行使したことについて,刑訴法312条2項の予定する範囲を超え,同法の定める当事者主義の原則に反する違法があるとされた事例
原審段階で認知症と診断された被告人の原審及び控訴審における訴訟能力が争われた事案において,控訴審での精神鑑定の結果,被告人は認知症ではなく,記憶障害などを発症するウェルニッケ・コルサコフ脳症であったと診断されたことを前提に,被告人に記憶障害はあり,詐欺,詐欺未遂の本件各犯行に係る具体的な事実関係を自ら想起できず,誤った記憶を想起して述べてしまう可能性もあるが,記憶以外の知的機能について大きな問題はなく,弁護人が作成した書面を読解する能力もあり,弁護人は,記憶障害発症前に被告人が取り調べられた際の録音録画DVDを検討するなどして適切な応訴方針を策定することや,弁護人の応訴方針を被告人に説明して理解させ,それに対する意向を確認することができたと考えられることなどから,被告人の訴訟能力は著しく制限されてはいるが,弁護人からの適切な援助を受けることによりなお訴訟能力を保持しているといえるとして,原審及び控訴審における訴訟能力を肯定した事例
トンネル建設工事につき,設計業者が構築物の安全性に関する説明義務を怠ったために損害が発生したとして,設計業者の不法行為責任を認めたが,発注者である地方公共団体にも十分な確認や検討を怠った注意義務違反があり,その程度は重大であるとして,8割の過失相殺をした事例
勾留による拘禁が不当に長くなったとして刑訴法91条1項により勾留を取り消した原決定の判断は,審理の遅延が弁護人の不適切な訴訟活動によるところが大きいことを考慮しない点で不合理であり,判断に誤りがあるとされた上で,勾留の必要性がなくなったとして,勾留を取り消した原決定の結論は維持された事例
日本及びD国の国籍を有する原告(妻)が,チェコ及びE国の国籍を有する被告(夫)に対し,離婚を求めるとともにD国及びE国の国籍だけでなく,チェコ国籍を有することに争いがある長男の親権者を原告と定めること等を申し立てた事案において,親子間の法律関係の準拠法については,法の適用に関する通則法により,原告は日本法(通則法38条1項ただし書),被告は約24年間チェコに在住していたこと等からチェコ法(通則法38条1項本文),長男はチェコ国籍を有するものと認めた上で約2年半チェコに居住し永住権も取得していること等からチェコ法(通則法38条1項本文)がそれぞれ本国法となり,子である長男の本国法と父である被告の本国法が同一であるから,親子間の法律関係はチェコ法が適用(通則法32条)されるとし,長男の親権者・監護については,チェコ民法においては,離婚後も親責任を有するが,被告は様々な国に転々と赴任し長男の養育環境としては不安定な面があることは否定できないなどとして原告の単独監護(チェコ民法907条1項)に委ねることが相当であるとし,原告の請求を認容した事例
1 特別縁故者に対する相続財産の分与申立事件において,申立て後,審判前に死亡した申立人の相続人らに相続財産の一部を分与した事例
2 特別縁故者に対する相続財産の分与申立事件において,申立人が既に民法958条の3第2項の期間を経過した者との間で,申立人に対する相続財産分与審判が確定することを停止条件とする贈与契約を締結したことの考慮の当否を判断した事例
パチンコ遊技機及びパチスロ遊技機の販売業者の事業者団体が,その組合員である販売業者に対し,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則の改正により設置が許されなくなった遊技機の計画的な撤去を目的として,撤去に係る計画に従う旨の誓約書を提出しないパチンコ・パチスロ遊技場経営者に対して中古遊技機の設置に必要な保証書作成等を拒否するよう要請したことは,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2条9項1号イ所定の「競争者と共同して」「供給を拒絶」する行為に該当するが,目的の正当性及び手段の相当性が認められるから,不公正な取引方法に該当しないとされた事例
抗告人が死亡した養子との死後離縁の許可を求める事案において,原審は推定相続人排除の手続を潜脱する目的でなされた恣意的なものであると認めざるを得ないとして申立てを却下したが,抗告審は,申立てが生存養親又は養子の真意に基づくものである限り,原則としてこれを許可すべきであるが,離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなど,社会通念上容認し得ない事情がある場合には,これを許可すべきではないと解した上で,本件は,利害関係参加人の就労実績や相当多額の遺産を相続しており,利害関係参加人が抗告人の代襲相続人の地位を喪失することとなっても生活に困窮するとは認められないことなどから,社会通念上容認し得ない事情があるということはできないと判断し,このことは抗告人に利害関係参加人を自らの相続人から廃除したいという意図があるとしても左右されるものではないとし,原審判を取り消し,本件申立てを許可した事例
株式会社が,その経営支配権に現に争いが生じている場面において,当該株式会社の株式の敵対的買収によって経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持することを主要な目的としてする新株予約権の無償割当てが,会社法247条2号所定の「著しく不公正な方法により行われる場合」に該当するとされた事例
「全生活史健忘」と診断された申立人が,就籍許可を求めた事案において,就籍許可の要件である「日本国民であること」については,昭和27年法律第268号による改正前の国籍法2条4号は,「日本で生まれた場合において,父母がともに知れないとき,又は国籍を有しないとき」と定めているところ,申立人が日本国内で生まれたことを示す直接な証拠はないものの,家庭裁判所調査官の調査等から得られた事実を総合考慮すれば,申立人は日本で生まれたと推認するのが相当であるから,日本国民であると認めるのが相当とし,戸籍法110条1項所定の「本籍を有しない者」については,日本人として戸籍に記載されるべきでありながら何らかの理由で記載されていない者をいい,その中には本籍を有することが明らかでない者も含まれると解すべきところ,申立人については,様々な身元調査を実施したものの身元を確認することができないことから,「本籍を有しない者」に該当すると認めるのが相当であるとして,就籍許可の要件を充たすと認め,本件申立てを許可した事例
刑務所に収容されている者が矯正管区長に対して行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項に基づいてした診療録等の開示請求について,同項所定の保有個人情報に該当せず,開示請求の対象になるとして,開示しない決定を是認した1審判決を取り消した事例
弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)57条に違反する訴訟行為につき,相手方である当事者がその行為の排除を求めることの許否
遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分における被保全権利は,既存の権利ではなく,本案の終局審判で形成される具体的権利であると解され,その発令には本案の終局審判で当該係争物の給付が命ぜられる見込みが一応あるといえることの疎明を要するとした事例
相続人YがAの遺産について相続分を有することを前提とする前訴判決が他の相続人Xとの間で確定し,また,XがYに対してAのXに対する債務をYが法定相続分の割合により相続したと主張してその支払を求める訴えを提起していた場合において,Xが自己に遺産全部を相続させる旨のAの遺言の有効確認をYに対して求める訴えを提起することが信義則に反するとはいえないとされた事例
相手方(妻)が抗告人(夫)に対し,婚姻費用の分担を求めた事案において,原審は,抗告人は無職ではあるが,令和元年分の給与収入の5割程度の稼働能力を有するとして,婚姻費用分担金の支払等を命じたが,抗告審は,失職した義務者の収入について,潜在的稼働能力に基づき収入の認定をすることが許されるのは,就労が制限される客観的,合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならないものと解した上で,抗告人が自殺企図による警察官の保護を受け,それをきっかけとして職場を自主退職したこと,主治医の意見書において,就労は現状では困難であるとされていることなどが認められることからすれば,上記の特段の事情があるとは認められないとして,原審判を取り消して,本件申立てを却下した事例
1 特定の日におけるコンピュータシステムの営業稼働開始をビジネス上の目標としてベンダーとユーザーの間で締結された開発段階ごとの複数のシステム開発契約において,ベンダーの債務の内容としては,システムを最終的に完成して営業稼働させることやビジネス上の目標日を稼働開始の確定期限とすることが合意されていないと判断された事例
2 開発段階ごとの複数のシステム開発契約に基づくシステム稼働開始がビジネス上の目標日に間に合わなかった場合において,合理的期間内に必要な技術的レベルにまで改善できない状態にあることなどからベンダーの帰責事由によりその債務が履行不能であるとのユーザーの主張が,全部排斥された事例
取締役が外国の関連会社等における業務執行について当該外国の裁判所に係属した刑事事件において有罪判決を受け,これが確定したことは,会社法854条1項にいう「役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令に違反する重大な事実があった」場合に当たるとはいえないとされた事例