1 控訴人は,ミャンマーのラカイン州で出生したイスラム教を信仰するロヒンギャで,幼少時にヤンゴンへ移住して生活していたところ,民主化運動のデモに参加して禁固刑に処せられ,その際にロヒンギャであることを理由に暴力を受け,出所時に今後は政治活動に一切関わらない旨の誓約書に署名したが,その後も政治活動を行い,不正な手続で出国した後,日本においてロヒンギャ団体の会員となり,ミャンマー大使館前のデモに参加し,その写真が新聞に掲載されるなどしており,ミャンマーにおいてロヒンギャが迫害されている状況を踏まえると,控訴人には看過できないような人種,宗教及び政治的意見に関する事情が積み重なっており,ミャンマーに帰国すれば,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす程度の迫害を受けるおそれがある客観的・現実的な危険があったと認められ,控訴人は難民に該当するとして,平成28年6月の法務大臣の難民不認定処分を取り消した事例
2 裁判所が弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して事実についての判断をするに当たっては,難民認定申請者が客観的資料を提出しなかったり提出までに一定の期間を要したりしたからといって,直ちに難民であることを否定すべきではなく,本人の供述するところを主たる資料として,恐怖や国家機関ないし公務員に対する不信感等による供述への逡巡,時間の経過に伴う記憶の変容,希薄化の可能性,民俗,宗教,置かれてきた環境等の背景事情の違いなども考慮した上で,基本的な内容が首尾一貫しているか,変遷に合理的理由があるか,不合理な内容を含んでいないか等を吟味し,難民であることを基礎付ける根幹的な主張が肯認できるか否かを検討して行うべきであり,国連難民高等弁務官駐日事務所作成の「難民認定基準ハンドブック」に記載されている難民申請者が置かれている状況や難民申請者が感じる恐怖などは,重要な経験則を示すものとして,尊重すべきである
3 行政処分庁がロヒンギャに対する根強い偏見を持っている場合が多いミャンマー人を控訴人の難民認定申請時の通訳に充てたことなどから,通訳の正確性について適正に担保されていたとは認められないなどとし,このことをも考慮した上で,控訴人の供述等の変遷による信用性の減殺を認めなかった事例
4 口頭弁論終結時においても,ミャンマーでは,国家機関による民族浄化が行われるなど,ラカイン州外のロヒンギャであっても,迫害の恐怖を抱く客観的事情が存在し,前記1のような状況にある控訴人が難民に該当することは明らかで,法務大臣は難民の認定をしなければならず,裁量の余地はないとして,出入国管理及び難民認定法61条の2第1項の規定による難民の認定を命じた事例